
最近、ニュースやネット記事などで教員の労働環境がブラックだと取り上げられるようになりました。教員の仕事は果たして本当にブラックなのでしょうか。
また、教員の働き方改革を進めていくうえでの具体的な切り口とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
この記事では現役教員である筆者が、教員の労働環境をもたらす原因と働き方改革が求められる背景について述べたいと思います。
教員はブラック!その労働環境をもたらす原因とは?

教員の労働環境はブラックなのか?結論から言うと、その環境はブラックだといえるでしょう。理由として以下の3つが挙げられます。
- 残業時間が長い
- 残業時間に見合わない固定残業代
- 精神的ストレスを生み出す要因が多い
順番に解説していきます。
残業時間が長い
教員は残業時間が長いといえます。教員の残業時間を表すデータとして、全日本教職員組合が独自で行っている調査結果があります。2022年に実施されたこちらの調査によると、小中高校などに勤める教員の月平均残業時間は92時間に及んでいます。これは過労死レベルの残業時間に値します。
また、この残業時間の長さの原因としては、教員が抱える業務の幅広さと膨大さが考えられます。
教員の主な業務とされる授業とその準備に加え、部活動指導、生徒指導、生活指導(朝の挨拶活動や掃除指導など)、不登校・いじめ対応、校務分掌(運動会等の行事計画や校内情報端末機器の管理など、学校全体に関わる業務のこと)、保護者対応、教員委員会や文科省からの調査回答・報告などなど。。。
ここに挙げるだけでも多岐にわたる業務を教員それぞれが抱えているのが現状です。そのため、勤務時間内に業務が終わらず残業、もしくは持ち帰り仕事にならざるを得ないという実態があります。
残業時間に見合わない固定残業代
ただでさえ残業時間が長いことに加え、その残業に見合った報酬がもらえないというのも、教員がブラックたる大きな理由の1つでしょう。
教員の残業代に関する法律上の取り決めは「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」略して給特法によって定められています。この給特法によれば、教員には残業代に代わって教職調整額を月給の4%分支払うとされています。
具体的に考えると、月給22万の新卒教員に支払われる残業代は月8800円ということになります。仮に月残業が60時間だとすると、残業分の時給はなんと150円にも満たない額となってしまいます。
給特法により、教員はいわば定額働かせ放題になっている状態です。この給特法も教員のブラックな職場環境を生み出している大きな要因の一つだといえます。
精神的ストレスを生み出す要因が多い
精神的ストレスを生み出す要因が多いということも、教員の働きにくさの一つとして挙げられます。
教員は多くの人とかかわる職業といえます。仮に職員の人数が40人の学校で、30人学級を受け持つ担任の場合、関わる人の数は職員40人+子ども30人+保護者60人=130人となります。130人もの人と関わることになれば、温かい同僚や保護者、素直な子どもだけでなく、いわゆるモンスターペアレントや言うことを聞かない子ども、気が合わない同僚や上司に当たることも少なからずあります。
特にモンスターペアレント対応での教員の精神的負担は大きいものがあるでしょう。私も夜の8時ごろまで、2時間ぶっ通しで保護者からのクレームの電話に耐える先生を見たことがあります。
また、業務管理がしにくいということも教員の精神的ストレスを増長する原因となっています。上記で述べたように教員1人あたりが受け持っている業務は多岐にわたります。そのため、教員は多くの仕事を同時並行的に処理する必要があります。
業務の中には緊急の会議や保護者対応、生徒指導事案など、急に挙がってくるものも少なくありません。スケジュール通りに仕事が進まず、結果として残業になってしまうということも少なくないでしょう。
このように、教員は精神的ストレスを生み出す要因が多い職業であるといえます。
叫ばれる教員の働き方改革!その背景とは?

学校現場で働き方改革が進められている背景として、一番に挙げられるのは人手不足が深刻化していることでしょう。人手不足の要因は大きく二つに分けられます。
一つ目に、上記のようなブラックな職場環境により、休職者が増加していることがあります。文部科学省の調査によると、2021年度に公立学校で精神的な病気で休職した教員の数は、全国で5897人に上り過去最高の数となっています。
休職者の増加によって学校現場の人手不足が深刻になり、現場の教員一人あたりの負担が増加し、さらなる休職者、退職者を生む、といった負のスパイラルに陥っています。
そして二つ目に、新しい教員のなり手がいなくなっているということがあります。
文科省が公表しているデータによれば、都道府県の正規の教諭として採用されるための、教員採用試験の平均採用倍率は2022年度、全国の小中学校や高校などの公立学校で3.7倍であったことが分かっています。これは4年連続で過去最低の値となっています。
倍率が低下している原因として、団塊世代の大量退職に伴う新規採用人数枠の増加が挙げられます。定年退職者が増えていえる分、新規に採用する教員の母数も増加し、結果として倍率が下がっているという考えです。
しかしながら、近年学校現場のブラックさがメディアに取り上げられ、さらには民間企業の労働環境改善が進んでいることにより、新卒の学生にとっては相対的に学校現場が魅力的な就職先に見えなくなっていることも事実でしょう。
また、学校において人手不足が慢性化すると、それは公教育の質の低下にダイレクトに影響していきます。実際に担任が不足したことにより、担任不在のクラス、一人の教員が複数のクラスを担当している学校も出てきているようです。まさに、日本の公教育の質を保証するために人手不足の解消は待ったなしの状況といえるでしょう。
このように、学校現場における人手不足解消、ひいては教職の魅力アップのために働き方改革が進められているのです。
学校現場で働き方改革は進んでいる?教員の働き方改革の現状

では、実際のところ学校現場での働き方改革の成果はあがっているのでしょうか。
結論として、働き方改革の成果はあまり出ていないというのが現状です。
文部科学省が2022年の4月~7月に全国の1794自治体の教育委員会に実施した働き方改革に関する調査によると、残業時間が45時間以上の教員の割合は前年度と比べてほぼ変わらない結果でした。
学校における働き方改革は、2019年に中央教育審議会が答申を取りまとめ、それを受けて文部科学省や各自治体で取り組みが進められていますが、結果が上がらない状況が続いているようです。
学校現場の働き方改革を進めていくためには?考えられる対策とは

さいごに学校現場で働き方改革を進めていくうえで、何が大切なのかを述べていきます。
働き方改革を進めていくうえで必要な視点は、学校業務の分散と削減、そして公教育の質の担保とのバランスです。
まずは、学校に関わる全ての人がそれぞれの立場で、現場での業務削減と公教育の質の担保のために何が必要なのかを真剣に考え議論し、実行に移していくことが必要でしょう。
教員一人一人だけでなく、学校組織全体として、地域の教育行政を担う教育委員会として、そして全国の教育行政を統括している文部科学省として、それぞれに業務削減のためにできることがあります。
また、学校業務の分散のため、企業や地域人材との連携も重要です。校内の情報機器の管理は企業に委託する、登下校の指導は地域の子ども会やボランティアにお願いするなど考えられます。
よくある例として、地域連携を図るために外部機関との連絡調整に時間を費やすことになり、結果として業務が増えてしまったなどと言うこともありえます。連絡調整の効率化を図りながら連携を図っていくという視点も重要です。
一方で公教育の質の担保とのバランスを図っていくことも重要です。教員の業務を削減、分散した結果、子どもたちの学力が大きく低下したり心理的に不安定な子が増えてしまったりといったことがないように、十分に配慮していく必要があるでしょう。
他にも、人材確保のため教員の魅力について積極的に発信していく必要もあるでしょう。学校現場の実態が注目されるのはいいのですが、教員のブラックさばかりが報道され、その結果として教員の志願者が減ってしまうようでは本末転倒です。
いずれにせよ、学校における働き方改革は、教員や学校だけが取り組んでいくものではなく、学校教育に関わる全ての人が当事者意識をもって進めていくことが必要になると思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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